東京地方裁判所八王子支部 平成9年(ワ)563号 判決 1999年3月30日
原告
今野喜久子
被告
中原安子
主文
一 被告は原告に対し、金九二四万五二九六円及びこれに対する平成七年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、金一一九七万九九四六円及びこれに対する平成七年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 原告の主張(1の(一)ないし(四)、(六)ないし(八)、3の(五)、(八)は争いがない)
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成七年一〇月二五日午後〇時五〇分ころ
(二) 場所 東京都八王子市楢原町一四五一番地の三先道路(以下「本件道路」という)
(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車
(四) 被害車 原告運転の原動機付自転車
(五) 態様 被告車の右前部と原告車の前部が正面衝突
(六) 原告の負った傷害 右手関節脱臼骨折
(七) 治療期間 平成七年一〇月二五日から同年一一月一九日まで二六日間入院、同月二〇日から平成八年四月五日まで通院(通院実日数五五日)
(八) 後遺症 伸展、屈曲障害等の右手関節機能障害(一二級六号、症状固定日平成八年八月一六日)
2 被告の責任
被告は、普通乗用自動車を運転し、中央線表示のない幅員五メートルの本件道路を秋川街道方面から北浅川方面に向かって進行していた。同所は幅員が狭い上、道路が右方に湾曲し、前方の見通しが困難であったから、自動車運転者としては適宜減速徐行し、ハンドル及びブレーキを的確に操作して進路の安全を確認しつつ道路左側を進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、湾曲箇所の前方において本件道路の左側部分が削られた状態で幅員が三・六メートルに狭まっていたのに、速度を調節せず漫然自車を道路右側に進入させて湾曲箇所を進行した過失により、折から高尾街道方面から秋川街道方面に向けて進行するため東京都八王子市楢原町一四五一番地の三先のT字型交差点(以下「本件交差点」という)を左折して本件道路の右端側を対向進行してきた原告運転の原動機付自転車を自車直前に認めるもそのまま自車右前部を同原動機付自転車の前部に衝突させ、原告に前記の傷害を負わせた。よって、被告は、民法七〇九条に基づき、原告の被った後記損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 休業損害 一〇一万一〇〇〇円
(二) 後遺症による逸失利益 四七八万六〇〇〇円
(三) 傷害慰謝料 一二〇万円
(四) 後遺症慰謝料(一二級六号) 二七〇万円
(五) 入院費、治療費 九八万七九〇六円
(六) 入院雑費 三万三八〇〇円
(七) 診断書等費用 一万五七五〇円
(八) 通院交通費 四万四八〇〇円
(九) 弁護士費用 一二〇万円
以上合計 一一九七万九九四六円
4 よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、一一九七万九九四六円及びこれに対する不法行為の日である平成七年一〇月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の主張
1 本件事故は、原告が交差点に侵入するに際し、一時停止及び安全確認を怠ったため発生したものである。したがって、被告には過失はない。仮に、被告に過失があったとしても、原告にも右のような過失があるから、過失相殺がなされるべきであり、その場合の原告の過失割合は八〇パーセントである。
2 被告は、入院費及び治療費として二一万三二三六円を支払った。(争いがない)
第三判断
一 甲第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし四、第一六号証、乙第一、第二号証、第三号証の一ないし四、第四号証、第五号証の一ないし五、第六、第七号証、第八号証の一ないし三、原告及び被告各本人尋問の結果、弁論の全趣旨に当事者間に争いのない事実を総合すると、原告の主張1、2の事実を認めることができる。したがって、被告は、民法七〇九条に基づき、原告の被った後記損害を賠償する責任がある。
被告は、本件事故は原告が本件交差点に進入するに際し、一時停止及び安全確認を怠ったため発生したものであるから被告には過失はないと主張するけれども、前掲各証拠によれば、原告は本件交差点を左折するに際し、本件交差点手前の停止線で一時停止し、本件交差点に設置されたカーブミラーで秋川街道方面から来る車がないことを確認した後発進したこと、原告は発進後もカーブミラーを見ながら道路左側の路側帯の白線に沿って進行したが、その間もカーブミラーには車が写っていなかったこと、原告は左折を終えた地点(甲第九号証のウ地点)でエムテー工業株式会社の看板が掲示されている付近の本件道路を秋川街道方面から北浅川方面に向けて進行してきた被告運転の普通乗用自動車を発見したこと、その後甲第九号証の<×>地点で原告車と被告車は衝突したこと、本件事故は被告が徐行せずに、前方注視が不十分のまま本件道路の右よりを進行したため発生したこと、被告は原告の原動機付自転車を発見後直ちに車を左側に寄せて衝突を回避する措置を取っていないことが認められるから、被告の前記主張は採用できない。
また、被告は、本件事故は交差点内における出会い頭の衝突事故であると主張し、その根拠として司法警察員作成の実況見分調書添付の交通事故現場見取図(乙第一号証)を挙げる。右実況見分調書によると、被告は交通事故現場見取図の<2>地点に達したときに原告車両を<ア>地点に発見した旨が記載されているが、前掲各証拠によると、原告が<ア>地点のとき被告が<2>地点にいたとすれば、原告が左折しながらカーブミラーを見たときに被告車がカーブミラーに写っているはずであるのに、原告が左折しながらカーブミラーを見たときには被告車は写っていなかったことが認められ、さらに、実況見分調書によると、原告の原動機付自転車が倒れた地点は本件交差点のほぼ中央付近となっているが、前掲各証拠によると、原告の原動機付自転車が倒れた地点は原告の進行方向から見て本件交差点の左角の側溝の蓋の付近で、本件交差点の角に駐車していた竹島製パン株式会社のトラックのすぐ横(甲第九号証のカ地点)であったことが認められるから、司法警察員作成の実況見分調書添付の交通事故現場見取図(乙第一号証)は採用できず、被告の前記主張も採用できない。
二 前掲各証拠によると、原告の被った損害は次のとおりである。
1 入院費、治療費(争いがない) 九八万七九〇六円
2 入院雑費 三万三八〇〇円
(計算式)
一三〇〇円×二六日=三万三八〇〇円
3 診断書等作成費用(甲第五号証の一、二) 一万五七五〇円
4 通院交通費(争いがない) 四万四八〇〇円
5 休業損害 一〇〇万三九六三円
原告の年収を賃金センサス平成七年第一巻第一表女子労働者の学歴計全年齢平均年収額である三二九万四二〇〇円として計算すると、次のとおりとなる。
(計算式)
(一) 入院期間二六日と通院実日数五五日の合計八一日間は一〇〇パーセント就労不能
三二九万四二〇〇円×八一日÷三六五日=七三万一〇四一円
(二) 平成七年一〇月二五日から平成八年八月一六日までの二九七日から右(一)の八一日を控除した二一六日間は一四パーセントの就労不能
三二九万四二〇〇円×〇・一四×二一六÷三六五日=二七万二九二二円
(三) (一)と(二)の合計額 一〇〇万三九六三円
6 後遺症による逸失利益
原告の年収を三二九万四二〇〇円として、五二歳(症状固定時)から六七歳までの一五年間(ライプニッツ係数一〇・三七九六)につき、一四パーセントの労働能力喪失による損害
(計算式)
三二九万四二〇〇円×〇・一四×一〇・三七九六=四七八万六九四六円
7 入通院慰謝料(入院二六日、通院一三八日) 一二〇万円
8 後遺症慰謝料(後遺障害別等級表一二級の慰謝料) 二七〇万円
9 以上合計 一〇七七万三一六五円
10 過失相殺二〇パーセント 八六一万八五三二円
前掲各証拠によると、本件交差点に設置されたカーブミラーでは、原告の進行方向からはエムテー工業株式会社の看板が設置されている付近までしか見通すことができず、そこから秋川街道方面の道路は道路が曲がっているために見通すことができないこと、本件交差点からエムテー工業株式会社の看板が設置されている付近までは二十数メートルであること、本件交差点から北浅川方面に向かっては道路の左側が削られた状態で幅員が狭くなっているため、秋川街道方面から北浅川方面に進行する車は本件交差点の近くで道路の中央よりを走行することが予想され、場合によっては道路の右端に接近して走行する車もないとはいえないこと、本件事故当時は、本件交差点の角に竹島製パン株式会社のトラックが駐車していたため、原告からは秋川街道方面の見通しが極めて悪かったこと、これらの道路状況は、原告も十分承知していたことが認められる。右認定事実によれば、原告がカーブミラーから目を離してから左折を完了して秋川街道方面を見通すことができる地点に達するまでの間に、秋川街道方面からエムテー工業株式会社の看板が設置されている角を曲がって北浅川方面へ進行して来る車がないとはいえず、したがって、原告が本件交差点を左折するに際しては、停止線の手前で一時停止するだけでなく、左折が完了して秋川街道方面を見通すことができる地点に達するまでは最徐行して、いつでも直ちに停止できる速度で進行する義務があるというべきところ、原告は徐行しながら本件交差点を左折したものの、原動機付自転車の運転者として最徐行まではしなかったものと認められるから、原告にも一定の過失があり、その場合の過失割合は、右に認定した本件道路の形状、他の車両の駐車状況や先に認定した衝突地点等からすると、二〇パーセントと認めるのが相当である。
11 既払額(争いがない) 二一万三二三六円
12 差引額 八四〇万五二九六円
13 弁護士費用 八四万円
14 総合計額 九二四万五二九六円
三 以上によれば、原告の本訴請求は、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として九二四万五二九六円及びこれに対する不法行為の日である平成七年一〇月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 矢﨑博一)